【題】⇒チューリップ係長の「一発逆転」社外研修日記
時計の針が18時を回ったところで、私は大きくため息をついた。
今日もまた、胃の奥がキリキリと痛む一日だった。
原因は分かっている。
今年配属されてきた新入社員の「令和くん(仮名)」だ。
「係長、定時なんでお先に失礼します。
あ、明日の資料なんですけど、
僕のモチベーションが上がったら夜に自宅でやっておきますね」
そう言って、彼はスマホを見つめたまま爽やかに去っていった。
…モチベーション?
仕事とは、モチベーションが上がろうが下がろうが、歯を食いしばって完遂するものではなかったか。
私の若い頃――昭和の終わりから平成初期にかけては、
上司の「おい、今夜行くぞ」の一言で、プライベートなど一瞬で消し飛んだものだ。
毎晩のように終電まで「飲みにケーション」に付き合い、理不尽に怒鳴られても、
「いつか見返してやる」と這い上がってきた。
会社は家族であり、滅私奉公こそが美徳だった。
しかし、今の私はどうだ。
令和くんに「昔はなぁ」と口を開きかけた瞬間、
ハラスメントの6文字が脳裏をよぎり、言葉をゴクリと飲み込む。
「あ、うん、お疲れ様。よろしくね……」
情けない声で微笑むのが精一杯だ。
時代が変わったのは分かっている。
彼らのタイパ重視、私生活優先の生き方が効率的なのも理解できる。
だが、どうしても胸のモヤモヤが消えない。
必死に会社に尽くしてきた自分の20数年間は一体何だったのだろうか。
出世街道からは外れ、気づけば万年係長。
家に戻れば、妻には「粗大ゴミ」扱いされ、娘には口も聞いてもらえない。
組織の板挟みになり、
どこにも行き場のない私の心が、唯一「開く」場所。
それがいま、目の前にあるネオン光るホールだ。
私の名前の由来でもある、あの昭和の懐かしい「チューリップ」はもうないけれど、
ここだけは今も昔も、私を無条件で迎え入れてくれる。
ネクタイを少し緩め、私が選んだのはe東京喰種。
原作の漫画は、娘が部屋に置いていたのをパラパラと読んだ程度だが、
「人間と喰種(グール)の狭間で葛藤する主人公・金木研(カネキ)」の姿が、
どうにも「昭和と令和の狭間で苦悩する自分」に重なって見えて仕方がないのだ。
カネキよ、お前も中間管理職みたいな辛さを味わっているんだな……。
万札を投入し、いざ実戦開始。
投資4,000円目。
液晶がざわつき始める。