作りすぎた温泉卵を九十九里の海岸線に並べてみる計画を思いつき、夜のうちに自転車で出発。
白い月に見送られて、私は卵の月面着陸プロジェクトを一人で始めた。
波音に合わせて卵を置いていくと、砂浜がやわらかい星座になった。
たぶん誰も邪魔しない。
通りかかった田村淳似の漁師が
「それ何座です?」と聞くので、
「オムライス座です」と答えたら、彼は親指を立てた。
そこへ、テトラポットによじ登ったフワちゃん似のババアが登場。
おもむろにカップ焼そばを作るやいなや、本来は捨てるべきお湯を一気飲み。
遥かなる尾瀬を熱唱。
月明かりを背に、湯気がオーラになっていた。
私は思わず拍手。
すると、私の拍手に釣られたのか、巨大な蟹が横歩きで近づき、小さな亀にジャンケンを挑む。
ハサミでチョキ、甲羅でグー。三本勝負の末、蟹が涙目で
「婚約はなかったことに」と砂に書いた。
亀は静かにうなずき、星のように波間へ。
海はときどき、劇場より劇場だ。
帰り道、古い橋の上で、通りすがりのベッキーが
全盛期のハイテンションを維持したまま壊れかけの自動販売機に向かって
「幸運の缶、出てこい」と祈っていた。
私はポケットの小銭を渡し、彼女は無事に当たりつきのココアを引き当てる。
二人で缶の底を鳴らし、夜に乾杯。
レバーを叩いてボタン押す——そんな繰り返しの先にも、たまには当たりが落ちてくる。
帰宅して、鍋の照りコロを一個つまむ。
歯ごたえはゼロ、数字はとろけて「∞」っぽい。
今日も世界は、私の前でサイコロを振り、出目を笑いに変えさせてくれた。