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月曜日の朝、出社してきた令和くんの顔を見て、私は思わず二度見してしまった。
いつもなら無表情かつスマートに
「オツカレサマデス」
と会釈するだけの彼が、
口元を緩ませ、心なしか足取りも軽く自分のデスクへと向かっている。
「…おはよう、令和くん。
そういえば週末の『情報収集』はどうだったんだい?」
私が声をかけると、令和くんは待ってましたとばかりにパッと目を輝かせた。
「係長! バッチリ期待値積んできましたよ!
彼女と意気投合して、今週末も遠出する約束取り付けちゃいました!」
「おお、そりゃあよかった!」
胸を撫で下ろすと同時に、万年係長のオヤジ心もなんだか誇らしい気分になる。
昭和の説教くさいアドバイスも、たまには役に立つものだ。
…だが、問題はその後に起きた。
浮かれきった令和くんの集中力は、完全にどこかへ飛んでいっていたのだ。
「令和くん、A社に送る見積書、桁が一つ足りないよ」
「えっ、マジすか!? すみません!」
「令和くん、午後の会議の資料、過去のデータをそのままコピーしてるぞ」
「あっ、やば…すぐ差し替えます!」
いつもならAIや最新ツールを駆使して完璧な仕事をこなす彼が、
午後になっても凡ミスを連発。
部署内は確認作業と修正対応で終日バタバタと追われることになった。
気がつけば時刻は18時を回っていた。
ミスを取り破るフォローに追われ、すっかり胃を痛めた私は、パソコンをシャットダウンする令和くんに声をかけた。
「令和くん。今日の『社外研修』、ちょっと付き合いなさい」
「あ…はい。
今日の僕、完全にパフォーマンス低かったですよね…すみません」
気まずそうに肩を落とす彼を連れ、私たちが向かったのは、いつもの『Pスーパー海物語IN沖縄6』のシマだった。
賑やかなBGMとハイビスカスの光に包まれ、ふたり並んで座る。
一万円札を吸い込ませ、ハンドルを握り締めながら、私は静かに切り出した。
「令和くん。デートがうまくいったのは本当に素晴らしいことだ。
だがね、パチンコも恋愛も、一番危険なのは『連チャン中』なんだよ」
「連チャン中…ですか?」
「そう。大当たりが続いてイケイケのモードに入った時、人は誰だって脳汁が出て興奮する。
だが、その熱波に飲まれて打ちっぱなしを続けていると、無駄な玉を減らしたり、大切な演出を見落としたりするんだ。
仕事も同じだよ。
浮かれた気分のまま突き進むと、今日みたいに足元をすくわれる」
令和くんはハンドルを握る手を止め、じっと私の顔を見た。
「じゃあ…どうすればいいんすか?」
「連チャン中の『離席(トイレタイム)』だよ」
私は自分の台の画面でゆらゆらと泳ぐマリンちゃんを指さした。
「どんなに高性能な確変モードに入ったって、一回ハンドルから手を離して、トイレに行って手を洗い、深呼吸して頭を冷やすんだ。
もちろん、ヘソ落ちの危険性のある台ではやってはダメだ。
そうでないならば、『間の取り方』だと思い聞かせ、少しは離席して心を落ち着かせたっていいじゃないか。」
令和くんはしばらく無言で私の言葉を噛みみしめていたが、やがて
「ははっ」と小さく笑った。
「なるほど…僕、完全に脳汁が出すぎて、仕事の押し順ミスってましたね」
その直後、令和くんの台の液晶でハイビスカスが鮮やかに一閃した。
「あ、来ました!」
見事に大当たりを引き当てた令和くんだったが、連チャンが確定した瞬間、スッとハンドルから手を離して立ち上がった。
「係長、ちょっとトイレ行って頭冷やしてきます!」
「おう、しっかり冷やしてこいよ!
あれっ、でも沖縄6ってヘソ消化してもいいんだっけ…?
まあ、いいか!!」
戻ってきた令和くんの目は、今朝の浮ついた輝きとは違う、いつもの冷静でスマートな光を取り戻していた。
【本日の収支】
投資:3,000円(二人分)
回収:約12,000円
収支:+9,000円
ホールを出ると、夜風が心地よく火照った身体を冷やしてくれた。
「係長、明日の朝イチで今日のミスに関するリトライ策と、業務フローの改善案出しておきます。
タイパ良く挽回しますんで」
「頼もしいね。
でも、週末のデートの準備もあるんでしょ?
あんまり根詰め過ぎないようにね。」
「もちろんです。
確変モード、しっかり完走してみせますから!」
軽やかに駅へと向かっていく令和くんの後ろ姿を見送りながら、私は自分のネクタイを緩めた。
部下の成長を支えるのも、中間管理職の悪くない「連チャン」かもしれない。
「さて…俺も家に帰って、冷えたビールでも飲むとするか」
ポケットの中のささやかな戦利品を揺らしながら、
私もまた晴れやかな足取りで駅の改札へと向かった。
(終)
