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「まさか、係長とここで肩を並べるとは思いませんでしたよ」

 

 

 

 

 

会社の給湯室でも、飲み屋の個室でもない。


ホール裏のダクトから流れる独特の匂いと熱気が漂う


「喫煙専用室」のガラス越しに、紫煙をくゆらせながら令和くんが言った。

 

 

 

 

 


前日、勇気を振り絞って「社外研修」という名の並び打ちに誘ったところ、彼は嫌がるどころか


「いいっすね。一緒に行きましょう」と二つ返事で乗ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 


「いやあ、令和くんも喰種(グール)を打つとはね…。普段はどういう風に打つ台を決めてるんだい?

 

 

 

 

 

 

 


「うーん、基本はSNSでバズってる台とか、

一番出玉のスピードが速くてパッと結果が出る台っすね。


だらだら打つのって時間の無駄じゃないですか。

サクッと出して、サクッと帰るのが一番っす

 

 

 

 

 

 

 

 

スマートにスマホをポケットに収める令和くん。


現代の若者らしい「無駄を極限まで嫌う」プレイスタイルだ。



一方で私はといえば、演出の細かな変化に一喜一憂し、

台の前にどっかと腰を据えて粘る昭和スタイル。

 

 

 

 

 

 

 

 


「なるほどね…。

じゃあ今日の『研修』は、いつもと少し違う空気感を味わってみないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 


こうして私たちが向かったのは、

ホールの一番手前にある『Pスーパー海物語IN沖縄6』のシマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

最新の派手な役物機やスマスロが爆音を響かせる中で、そこだけはまるで別世界だった。


ゆったりとしたBGM。


液晶の中で優雅に泳ぐマリンちゃんや魚たち。


そして、周りを囲むのは平均年齢70歳オーバーの「ベテラン社外研修生」たちだ。

 

 

 

 

 

 

「え、係長、っすか?

正直、演出もシンプルすぎるし、

ちょっと地味すぎません?」




と、令和くんが露骨に肩をすくめる。

 

 

 

 

 

 

 

「まあまあ。まあ座ってみなよ。

この『シンプルだが奥が深い環境』も、

たまには悪くないぞ

 

 

 

 

 

 

 


実は、私が彼をここに連れてきたのには理由があった。

 

 

 

 

 

 

 

令和くんの言う


「スマートに無駄を省く生き方」実に合理的で洗練されている。

 

 

 

 

 

 

 

だが、パチンコにも、そして「会社組織」にも、

言葉やルールだけでは割り切れない「人と人との泥臭い温もり」が存在する。




それを彼に見せたかったのだ。

 

 

 

 

 

 


一万円札を投入し、打ち始める。










「あ、泡ばっかりっすね。」


令和くんが隣で冷ややかに呟く。

 

 

 

 

 

 


だが、その瞬間。









隣の席でお金を投入し続けていた

御年80歳はあろうかというおばあちゃん(常連のタツさん)が、

私の画面を覗き込んで勢いよく叫んだ。

 

 

 

 

 

 


「これ、来るよ!」


「えっ、あ、はい!」

 

 

 

 

 

 


ドスッ! ドスッ!


昭和の魂で液晶の横を力任せに叩く(※もちろん壊さない程度に)。










すると、ハイビスカスがチカチカしだして








カニ揃いの大当たり!

 

 

 

 

 

 

「想いを込めりゃあ台に通じるんだよ!」

 

 

 

 

 

 

タツさんが自分のことのように大喜びし、私の肩をポンポンと叩く。


「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 


ふと隣を見ると、令和くんが口を半開きにしてフリーズしていた。

 

 

 

 

 

 

 


「…え? いまの、別に熱い流れじゃなかったですよね?

 

 

なんで当たったんすか…?

 


…?念じたら出たんですか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺にもわからん(笑)


令和くん。」

 

 

 

 

 

 

 

私は誇らしげにニヤリと笑った。


その後も、海のシマは熱狂に包まれていた。

 

 

 

 

 

 


隣のタツさんは、大当たりを引くたびに「これ食べな」と、

どこから出してきたのか分からない黒飴を令和くんの手に握らせる。

 

 

 

 

 

 

 


「あ、あの、僕、糖質制限してて…


「いいから食べな! 運気が巡ってくるから!

 

 

 

 

 

 

 

令和くんは戸惑いながらも飴を口に含み、気まずそうにハンドルを握り直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに、彼の台で「魚群」がハズれた時、


タツさんは


「あー! 台がいじわるねぇ! 次は絶対応えてくれるから!」

 

 

 

 

 

 

 


と、我が孫のように令和くんを励ました。

 

 

 

 

 

 

最初は「地味だ」「無駄が多い」と困惑していた令和くんだったが、1時間も経つと、

 

 

 

 

 

 

タツさんに「おばあちゃん、次ジュゴン来たら教えて」


と完全に打ち解けていた。

 

 

 

 

 

 

効率的な立ち回りも、スマートな演出もない。

 

 

 

 

 


ただ「当たったら全員で沸き立ち、ダメなら全員で肩を落とす」という、

理屈抜きで熱い空間。

 

 

 

 

 

 

それは、かつて私たちが「昭和の飲み屋」で上司や先輩と肩を組み、

理由もなく熱く語り合っていた、あの泥臭い空気感そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【本日の収支】


投資:4,000円(二人分)


回収:約18,000円


収支:+14,000円(と大量の黒飴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ホールを出ると、駅前の街灯の下で令和くんがポツリと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 


「…なんか、いつもと違って体動かして楽しんだ感じで、悪くなかったっす」

 


令和くんはポケットから貰い物の黒飴を取り出し、舐めながら笑った。

 


「なんであれ当たったんだろうな…(笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の笑い声が、夜の街に溶けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 


「令和くん、明日の定時後は直帰扱いにしておくからな」

 


「了解っす。じゃあ明日は僕が、一番活気のあるシマ『開拓』しておきますね

 

 

 

 

 

 

すれ違う夜風はすっかり柔らかくなり、

私たちの影が月明かりの下で二つ、並んで伸びていた。





(終)








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