獲得枚数は約500枚。
投資を引けばプラスだが、あまりにも物足りない。脳汁が足りない。
令和くんの言う「コスパの良い生き方」とは、
まさにこの500枚のような、手堅く、しかし爆発力のない現実そのもののように思えて、
私は釈然としないまま席を立った。
時刻は20時30分。
まだ帰るには早い。私はふらふらと、前回大勝ちした『e東京喰種』のシマへ様子を見に行った。
完全に「沼」に片足を突っ込んでいる自覚はあった。
お目当ての台が空いているか確認しようとした、その時。
カド台の東京喰種で、凄まじい勢いでハンドルを右に捻り、
微動だにせず画面を凝視している男の背中が目に飛び込んできた。
首筋には、スマートウォッチ。
仕立ての良い、だが少し着崩した今風のスーツ。
そして、台が激しい音を立てて大当たりを祝福しているにもかかわらず、一切表情を崩さない冷徹な横顔。
「…え?」
私は我が目を疑った。
そこにいたのは、
「タイパ重視」
「無駄な努力は悪」と豪語し、
定時で爽やかに帰宅したはずの、
新入社員の「令和くん」だった。
彼の目の前のデータランプは、すでに11連チャン、表示は30,000発を超えている。
前回、私が「猛者の証」として誇っていた16,000発を、彼は初々しい顔で倍近く上回っていた。
「間違っているのは僕じゃない、
間違っているのはこの世界だ――!」
カネキの叫び声が響く中、令和くんは画面に向かって、ボソッと呟いたような気がした。
「…これ。この脳汁の出方、
完全に期待値超えてるわ。
タイパ最強すぎ」
私は、彼の視界に入らないようにそっとホールの外へ出た。
夜風が、前回よりも少し冷たく感じられた。
(あいつ…モチベーション、ここで爆上げしてたのかよ…)
なぜか奇妙な親近感と、込み上げる笑いを止められなかった。
「なぁんだ。
令和だのタイパだの言ってたって、結局、
俺たちは同じ穴の狢(むじな)じゃないか」
会社での仮面を脱ぎ捨て、
むき出しの欲望と脳汁の海に溺れる姿は、
昭和のオヤジも令和の若者も、何一つ変わりはしない。
「よし。明日は令和くんに、
『良い社外研修の場所見つけたんだけど、一緒に行かない?』
って誘ってみるか」
景品交換所の前で、私は自分のネクタイを少し緩め、今度は本当にニヤリと笑った。
彼がどんな顔をするか、今から楽しみで仕方がなかった。