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0時42分、台所でサイコロを煮込んでみた。

 

 

 

あの1から6までの数字が印刷された、未来の確率を角で殴ってくる四角いやつだ。

 

 

ミリン砂糖に浸し、弱火でコトコト。

 

 

 

 

甘辛い香りのなか、鍋の中でサイコロが転がるたび、

 

 

うっすら「今日は2の目が吉」と囁いた気がして、思わず蓋を開けて確認してしまう。

 

 

 

 

浮かんだのは3。

人生はだいたいそういう裏切りでできている。

 

 

 

 

 

 

それが芦田愛菜の料理教室」——








テレビから澄んだ声が流れてきた瞬間、鍋の主導権を完全に明け渡した。

 


画面の向こうでは、規則と科学が笑顔に変換されていく。

 


私の鍋は規則性ゼロの乱数製造機。

 






だけど奇跡的にテリが出てきて、サイコロが照りコロに進化した。


声に出して「照りコロ」。うん、誰にも見られていないはずだ。






 

続いて南米の特集。


アナコンダにバターを塗る技巧派の番組で、新人リポーターの矢口真里




尾の先からマナーを守って塗ります!押忍!




と言ったところで、突然の番組終了。

 

 

 

 


デカすぎたんだ。


バター1箱で足りるわけがない。

 

 

 


リモコンを握る私の指が、使いかけのバターみたいにぐにゃぐにゃになった。

 

 

 

結局、確率というものに常に相対している日常へ帰還。


レバーを叩いてボタン押す。


レバーを叩いてボタン押す。

 

 


隣の部屋では、同居人の二所ノ関親方が

 

 

「深呼吸、深呼吸」と言いながら、

 

 

電気ポットの湯気でフェイススチームをしている。

 

 


私は机の上のミニゲーム機で、数字の神と腕相撲。

 

 


繰り返しだが、結果は毎回違う。

 


私の脳内のディーラーは悪どくウインクして、景品の飴ちゃんを毎回1個だけ寄越す。

 


だが勝負の前に鏡を見ることを忘れない。








ああハゲてない。


今日の勝利はそこにある。

 

 

 


髪は戦友、夢は主食。


私はただ夢を追い続けてる。

 

 

 

夢と言えば、恐竜って見たことあるか?


と自問してみる。


化石じゃなくて生きているやつを。

 

 


みんなは言うだろう、恐竜は絶滅したんだ、もういないと。


いまいるのは、せいぜいデカいトカゲ





——そう口にした瞬間、


台所の隅からヤモリがぬっと顔を出し、私にウインク。

 

 


小さな指でフライパンを指し、「焦げてるよ」とでも言いたげだ。


君は恐竜じゃないが、台所の神だな。








作りすぎた温泉卵を九十九里の海岸線に並べてみる計画を思いつき、夜のうちに自転車で出発。

 


白い月に見送られて、私は卵の月面着陸プロジェクトを一人で始めた。

 


波音に合わせて卵を置いていくと、砂浜がやわらかい星座になった。


たぶん誰も邪魔しない。

 


通りかかった田村淳似の漁師

 

それ何座です?」と聞くので、

 

オムライス座です」と答えたら、彼は親指を立てた。

 

 

そこへ、テトラポットによじ登ったフワちゃん似のババアが登場。


おもむろにカップ焼そばを作るやいなや、本来は捨てるべきお湯を一気飲み。

 

 


遥かなる尾瀬を熱唱。


月明かりを背に、湯気がオーラになっていた。

 

 


私は思わず拍手。

 


すると、私の拍手に釣られたのか、巨大な蟹が横歩きで近づき、小さな亀にジャンケンを挑む。


ハサミでチョキ、甲羅でグー。三本勝負の末、蟹が涙目で



婚約はなかったことに」と砂に書いた。

 

 


亀は静かにうなずき、星のように波間へ。


海はときどき、劇場より劇場だ。

 

 


帰り道、古い橋の上で、通りすがりのベッキー


全盛期のハイテンションを維持したまま壊れかけの自動販売機に向かって

 

幸運の缶、出てこい」と祈っていた。

 

 


私はポケットの小銭を渡し、彼女は無事に当たりつきのココアを引き当てる。

 


二人で缶の底を鳴らし、夜に乾杯。

 


レバーを叩いてボタン押す——そんな繰り返しの先にも、たまには当たりが落ちてくる。

 

 

 

 

帰宅して、鍋の照りコロを一個つまむ。

 


歯ごたえはゼロ、数字はとろけて「∞」っぽい。

 


今日も世界は、私の前でサイコロを振り、出目を笑いに変えさせてくれた。








0時台のうちにこれを書いておく。

 

 


アイ・アム・レジェンド。


アイ・アム・モンスターハンター。


そして、アイ・アム・テリヤキ・ダイス・シェフ。

 

 


よし、風呂入って、夢のガチャ回して、朝に備えよう。

 

 


出ろ、6。


いいや、出ろ、石破茂の破顔一笑。

 

 


私のレバーは、まだ折れていない。






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